象の背に横座りした普賢菩薩を鋳銅した香炉です。
これは山口県の周防地方にある名刹から、同県の古い骨董屋が買い出したもので、寺名も業者名も明らかにできないのが残念です。

日本に象が将来されたのは、八代将軍吉宗の時代です。それまで中国の図像によって姿は知られていたものの、日本人は象の実態を知りませんでした。
それゆえ実際の象の耳の大きさを知らず、この香炉のように小さめの耳しか想像ができなかったのでしょう。
したがって、赤地の銅色をしたこの香炉が日本製だとすれば、江戸初期あるいはもっと前の時期に作られたものと考えられるのです。

だいたいのサイズは、横360㎜・縦155㎜・高さ478㎜、約11kg。古い寺院に飾られていたゆえ、経年によるヨゴレ・小サビは見られるものの、大きなイタミはなくまずまずの状態です。
本来は獅子に乗った文殊菩薩のものと一対だったそうですが、そちらは関西の業者に買われたと聞きました。

内部には灰が硬くこびりついた状態です。古い銅味を堪能していただきたいものです。